トップバナー
コラム
COLUMN
リンク Twitter Meta LINE
 2022/9/22南大阪総合労務事務所

酒造の「杜氏」の労働契約・労務管理は?正規雇用する場合の問題点と解決法

労務管理に関するお悩みの内容は、事業主様それぞれによって異なります。

わかりやすくスッキリさせたいと思いながらも、法律や現場との兼ね合いから、どうするべきかわからない…と悩む方も少なくありません。

今回は、酒造で働く「杜氏」についてのご相談を取り上げます。

杜氏の働き方をどう管理するのか、ぜひ参考にしてみてください。

今回ご相談いただいた内容は?

今回、ご相談いただいたのは酒造を営む事業主様です。

老舗酒造メーカーも多い中、比較的歴史の浅いメーカーが生き残ることは、決して簡単ではありません。

老舗に負けない競争力を身につけるためには、優秀な杜氏をしっかりと確保しておくことが重要だと言えるでしょう。

杜氏とは、日本酒を作る上で現場の最高指揮官となる存在です。

酒造りのすべての工程に精通しており、全体の流れを取り仕切る役割を果たしています。

さて、今回ご相談いただいた内容は、そんな杜氏の雇用体系に関するもの。

「杜氏を業務委託ではなく正規雇用したいが、それに伴って発生する各種労務問題にどう対応すれば良いかわからない」とお悩みでした。

杜氏を正規雇用する場合の問題点とは?

杜氏という仕事はもともと、「出稼ぎ」のスタイルで就労する方が多かったと言われています。

これは農閑期・漁閑期を迎える冬の時期に、ちょうど忙しくなる酒どころの蔵元が、絶好の働き口だったからなのでしょう。

そこから発展し、現代では、酒造りの時期にだけ業務委託によって杜氏を確保するメーカーも多く見られるようです。

とはいえ、実際に現場で働く杜氏側の視点で見れば、不安定な立場が、仕事に対する不満にもつながりかねません。

昔と同じく、農業や漁業と兼業している方にとっては、都合の良い働き方と言えるでしょう。

しかし、それ以外の方にとっては、その就業の仕組みこそが、業界に足を踏み入れるハードルの一つになってしまっているのです。

だからこそ、もしも杜氏を正規雇用し、安定した職場環境を用意できるようになれば、他社との差別化につながります。

経験豊富で確かな腕を持つ杜氏を確保しやすくなりますし、また労務管理が体系化され、事業主様側にとってもメリットが発生するでしょう。

ただ一つ問題なのは、杜氏の仕事に、決まった労働時間を当てはめるのは難しいという点です。

お米を発酵させて作る日本酒は、いわば生き物と同じ。

杜氏が担う業務内容は断続的で、労働と生活が一体化していると言っても過言ではありません。

たとえば「子育て」と同じように、仕事とその他の生活を切り離すことが難しいのです。

しかし、だからといって労務管理をあいまいにするわけにはいきません。

事業主側としても、際限なく残業代を支払えるわけではないでしょう。

このあたりの問題を、法律的にどう解決するのかが今回のご相談内容のポイントと言えます。

杜氏という仕事の特殊な業務内容に合った扱いを

今回のお悩みに対する解決法としては、「杜氏を農林水産業扱いとして雇い入れる」という方法がおすすめです。

清酒製造業において、醸造部門の責任者を担っている杜氏。

同じ清酒製造業に従事していても、醸造部門とその他の部門では、全く異なる性質を持っています。

だからこそ労働基準法の解釈総覧(改訂16版)では、醸造部門とそれ以外の部門において、原則として別個の事業として扱うよう定めています。

醸造部門では、その業務の特性上、作業工程において微生物の培養管理が求められます。

生き物を管理する上で、気温や湿度など、各種自然条件に左右されるのは当たり前のこと。

だからこそ清酒製造業の醸造部門、つまり杜氏の仕事は、「動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業」として取り扱うよう定めているのです。(※1)

こちらに当てはまる場合、労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)が適用。

つまり、労働時間や休憩及び休日に関する規定については、適用除外の扱いとなります。

たとえば、労働基準法第32条で定められた、

・使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない

・使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない

についても、適用は除外されます。

第34条、第35条にある

・使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない

・使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない。

といったルールについても、適用されません。

法律に縛られず、杜氏の仕事内容や酒造りのリズムに合わせて、より自由に労働時間や休憩・休日を規定できるようになるでしょう。

また、時間外労働や休日労働に対する割増賃金についても、適用を除外されます。

杜氏を正規雇用で雇い入れたからといって、「残業代を際限なく支払わなければならない!」というリスクはありませんので、ご安心ください!(※2)

とはいえ、農水産業従事者が除外されるのが、労働基準法の「労働時間、休憩、休日」に関する規定のみです。

たとえば、年少者の深夜業禁止や年次有給休暇に関するルールは守らなければいけません。

今回は、杜氏を正規雇用する際のポイントについてまとめました。

法律を理解し、適切な形で雇い入れることができれば、労務管理の体系化や採用活動時のアピールにもできるでしょう。

杜氏に限らず、労務やそれにまつわる法律についてわからない点があれば、ぜひお気軽にご相談くださいね。

※1

労働基準法の解釈総覧(改訂16版)p778

※2

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
コラム一覧に戻る矢印

当社は初回相談無料です。
お気軽にご相談ください!
まずは、「1on1相談」(30分のWEB面談:無料)をしませんか?
人事労務の問題は、中々周囲に相談しにくいものです。また、専門家に相談すると別の解決策が見つかることも多いかと思います。まずは一度、お話を聞かせてもらえませんか?
右記の電話・メールにてご連絡頂いても構いませんし、「お問い合せフォーム」からお申込みいただければ、社労士(キャリアコンサルタント有資格者)が日程を調整しWEB面談を実施させていただきます。

TOP