IPO準備企業が確認すべき労務リスク
IPO準備企業が確認すべき労務リスクは多岐に渡ります。ここでは以下の10の労務リスクを紹介します。
特に、労働時間管理は労務リスクとしての早急な対策が必要です。
労働時間管理
労働時間を適切に管理していなければ、未払い残業の時間や36協定の遵守も根底が揺らぐため、非常に労務リスクが高い状態となります。まずは労働時間管理を適切に行うことが、IPOの審査においての第一歩とも言えるでしょう。時間外労働を含め労働時間管理は、客観的な記録による労働時間の把握が法的義務となっています。昨今は勤怠システムを使って管理することが一般的で、さらに実際に勤務した時間と打刻した時間の乖離時間を確認する所まで求められる場合もあります。PCログのある勤怠管理システムがあれば、法律を遵守した形での客観的な労働時間の管理が可能です。
企業はPCログデータの取得によって、テレワークでも在社勤務の場合でも、従業員の勤務実態を可視化することが可能です。
まずは自社の残業時間や36協定の遵守ができているか等、正確に把握することが必要です。
参考:労働基準法第三十六条(時間外及び休日の労働)
残業代の未払い
IPO上で問題となる労務リスクの1つとして、残業代の未払いがあります。残業代の未払いが発生する主な要因は、以下の4つです。
- 労働時間管理が不適正である
- 割増賃金計算に過誤がある
- 管理監督者の要件を備えていない
- 歩合給制で割増賃金を支払っていない
未払い残業代があれば、労務管理に不十分な点があると認められます。未払い残業代の要因を解決しないと、上場審査の通過は難しいでしょう。
適切な労務管理に向けて、実際に打刻した時間と、給与計算で用いている時間に乖離が生じていないか、チェックが必要です。また、法律に基づいた形での客観的な記録が残ってない場合は、PCログ付きの勤怠管理システム等による客観的な労働時間の把握を行うための体制を整える必要があります。
就業規則の運用状況
就業規則が整備されているのはもちろんですが、就業規則通りの運用状況となっているかも確認すべき点です。IPOの審査では、就業規則が形骸化している場合には通過できないためです。
上場に向けて多くの企業は就業規則を整備するものの、運用状況に結果が伴わないケースが見られます。就業規則は労務管理の根幹部分であるため、運用状況との乖離が生じないように整備する必要があります。
労働条件通知書の作成
労働条件通知書が作成されているかは、就業規則と同様にIPOの審査では重要なポイントです。労働条件通知書は、労働時間管理・残業時間の管理においても大切な役割を果たします。
雇用契約においては、労働者と使用者の両方が契約内容に同意していれば、口頭でも有効に成立します。
ただし、労働基準法上、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」という義務があるため、労働条件通知書を作成し、交付する必要があります。この際に互いに合意したことを示す雇用契約書の意味合いをかねて「労働条件通知書兼雇用契約書」として締結することで、労使間のトラブル防止に役立つでしょう。
※雇用契約書は、労働者と使用者の双方が合意(署名・捺印)する契約となります。
36協定の締結・届出
IPO準備企業が確認すべき点として、36協定の締結・届出をしているかどうかも確認すべきポイントです。36協定とは、時間外労働をさせるために必要となる、労使協定を指します。
36協定は、過重労働を防止するための労働基準法に基づいた労使間で結ぶ協定のことです。
中小企業の場合には、協定の届出がされていない場合も多く、是正勧告を受けることもあります。是正勧告を受けた場合には、速やかに労働環境の改善に努め、結果を是正報告として提出するようにしましょう。
参考:厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」[PDF]
有給休暇の取得状況
有給休暇の取得状況は、IPO準備企業が確認すべき労務リスクの1つです。2019年4月に労働基準法が改正され、使用者には、年に5日の年休を労働者に取得させる義務が課されています。年休が10日以上付与される労働者が対象です。対象となる労働者には、管理監督者と有期雇用労働者も含まれています。
昨今、IPOの審査や労働基準監督官にも有給の取得ができているかは重点的に確認されるポイントとなっています。IPO準備企業であれば、労働に関するコンプライアンスの強化が必要です。
参考:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得(P.5)」 [PDF]
ハラスメント対応
IPO準備企業は、ハラスメント問題への対応も必須です。近年では、さまざまなハラスメントが問題になっています。2020年6月から、パワーハラスメントの防止措置は事業主の義務になりました。
職場におけるパワーハラスメントとは、次の3要素を全て満たすものをいいます。
- 優越的な関係を背景にした言動
- 業務上必要かつ相当程度の範囲を超えた言動
- 労働者の就業環境を害している
客観的に業務上必要であって、相当程度な範囲内で行われた適正と認められる業務指示・指導は該当しないとされています。ハラスメント対策として、第三者による相談窓口の設置・適切な対応の研修・発生時の確認や対応の仕組み化をする必要があります。
参考:厚生労働省「2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!」[PDF]
安全衛生管理体制の整備
安全衛生管理体制が整備されているかも、IPOの審査において重要視されるポイントのため、IPO準備企業にとって、安全衛生管理体制の整備は欠かせません。常時50人以上の労働者を使用している事業場は、衛生管理者の選任等、法令で遵守すべき事項が増えますので注意が必要です。
2015年から常時50人以上の労働者を使用している事業場には、従業員のメンタルヘルスへの配慮のためストレスチェックと面接指導の実施が義務付けられました。上場審査をクリアするには、安全衛生管理体制の整備は必須といえるでしょう。
参考:厚生労働省「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について」[PDF]
社会保険の加入漏れ
IPO準備企業にとっては、社会保険の加入漏れには気を付けなければなりません。労務監査でも、漏れのない社会保険への適切な加入は重点的に確認される事項の一つです。
正社員だけでなく、パートやアルバイトの時短勤務労働者も一定の条件を満たしていれば、社会保険の加入義務が生じます。社会保険の加入漏れは法令違反となるため、そのような場合にはコンプライアンスを遵守していないとみなされることになります。また年金事務所からの指摘により、遡及して加入しなければならないこともあるため注意が必要です。
解雇トラブル
解雇とは、使用者からの一方的な労働契約の解除のことです。コロナ禍においては、企業の業績不振から解雇トラブルが急増しました。解雇は、客観的・合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められなければ、権利の濫用とみなされ無効となってしまいます。
解雇するリスクは高く、従業員も生活がかかっているためトラブルに発展しかねません。解雇はあくまでも最終手段の1つと考えて、退職勧奨による合意退職で合意書を作成し、解雇トラブルにならないようにする必要があります。
労務監査を依頼する社労士の選び方
労務監査を依頼する社労士の選び方を3つ紹介します。
- 実績や得意分野が自社ニーズに合致しているか?
- 相談はしやすいか?
- 料金体系は明確か?
上記を自社に合った社労士を選ぶ際の参考にしてください。社労士の判断で経営面への影響もあるため、慎重に選ぶ必要があります。
実績や得意分野が自社ニーズに合致しているか?
実績の多い社労士であれば、ノウハウも豊富なため特殊な事例にも対応できる可能性も高くなるでしょう。依頼する前に無料相談をして、確認することも大切です。
IPOにおける労務監査については通常の社労士業務とは異なる部分が多いため、注意が必要です。労働基準監督署、年金事務所の調査より、より網羅的で細やかな視点が必要なため、実績については必ず確認する必要があるでしょう。現在顧問社労士と契約がある場合には、顧問社労士にも相談して進める必要があります。
相談はしやすいか?
社労士に労務監査を依頼すれば、事前準備・監査実施・監査報告と付き合いが続きます。今後長く付き合うことを考慮すれば、相談しやすい社労士を選んだ方が良いでしょう。
何度か問い合わせや相談をしてみれば、相性の良し悪しが分かるはずです。コミュニケーションスキルの取りやすい社労士を選ぶことも大切です。優秀な社労士であっても、相談しづらければ途中で選び直すことになってしまいます。
料金体系は明確か?
労務監査に充てられる予算にも限りがある場合も多いでしょう。相談前には料金体系が明確であるかの確認が必要です。社労士のホームページの料金表の確認や問い合わせをし、複数を比較した上で選ぶべきでしょう。
社労士の料金体系は、以前は全国社会保険労務士連合会の定める報酬基準をベースにしていましたが、現在はそれぞれの社労士が価格設定を行っています。社労士に相談したことのある取引先などに相談して、相場を確認してみましょう。



